「自分はユーザーのことをよく知っている」という思い込みは、UXデザイン最大の敵です。頭の中のユーザーイメージと実際のユーザーの行動は、ほぼ確実にズレています。ユーザーリサーチとはそのズレを可視化し、設計の根拠をデータと事実に置き換えるプロセスです。このレッスンでは定量調査と定性調査の目的と手法、インタビューの設計・実施・分析方法、そして調査結果を設計に活かすための分析フレームワークを学びます。
ユーザーリサーチ — 定量・定性調査の使い分けと分析フレームワーク
UXリサーチの目的は3つあります。
多くのチームがやってしまうのは「設計後の評価リサーチ」だけを行うことです。問題を発見する前に解決策を作り、その解決策が間違っていたことを後から知る——このムダを防ぐために、設計前のGenerative Researchが特に重要です。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. リサーチ計画 | 目的・手法・対象者・スケジュール・成果物を定義 |
| 2. 対象者の選定 | スクリーニング・リクルーティング |
| 3. データ収集 | インタビュー・アンケート・観察・ログ分析 |
| 4. データ分析 | KJ法・アフィニティマッピング・テーマ抽出 |
| 5. 洞察の共有 | インサイトレポート・共有ワークショップ |
| 6. 設計への反映 | ペルソナ・ジャーニーマップ・HMWへの変換 |
💡 リサーチ計画書を書く習慣をつけてください。「このリサーチで何を知りたいか(リサーチクエスチョン)」を先に言語化することで、収集したデータが設計に直接つながります。リサーチクエスチョンなしのリサーチは、目的地なしの旅と同じです。
定量調査は「何が、どれくらい起きているか」を数値で把握するための手法です。統計的に有意な傾向を証明でき、「この問題はユーザーの何%が経験しているか」「どの機能が最も使われているか」といった問いに答えます。
主な特徴:
アンケート調査(Survey)
Google フォームやSurveyMonkeyを使って多数のユーザーから一斉に回答を収集します。設問設計が品質を左右します。
設問設計の基本原則:
Webアナリティクス(GA4・Mixpanel)
ユーザーの実際の行動データをリアルタイムで収集・分析します。インタビューでは得られない「実際の行動」が見えます。
| 指標 | 意味 | UX改善への活用 |
|---|---|---|
| 直帰率(Bounce Rate) | 1ページだけ見て離脱した割合 | ランディングページのUX問題特定 |
| セッション時間 | 1訪問あたりの滞在時間 | コンテンツの有用性評価 |
| ファネル離脱率 | 各ステップでの離脱割合 | 購入・登録フローの問題特定 |
| クリックマップ | どこがクリックされているか | ナビゲーション・CTA配置の評価 |
| スクロール深度 | ページのどこまで読まれているか | コンテンツ配置の最適化 |
A/Bテスト
2つのバリアント(A案とB案)をランダムにユーザーに表示し、どちらがより目標を達成するかを統計的に検証します。
⚠️ A/Bテストは「どちらが良いか」を統計的に証明できますが、「なぜ良いか」は教えてくれません。A案が勝った理由を理解するには、定性調査との組み合わせが必要です。
定性調査は「なぜそうなのか、どう感じているのか」を深く理解するための手法です。少数のユーザーとの深い対話や観察を通じて、数値では見えない動機・感情・思考プロセスを把握します。
主な特徴:
ユーザーインタビューは定性調査の中核です。適切に設計・実施すれば、アンケート100件分に匹敵するインサイトが5名のインタビューで得られます。
インタビューガイドの構成:
質問設計の原則:
💡 「このアプリを使いやすいと思いますか?」のような誘導質問は避けてください。ユーザーは社会的圧力から「はい」と答えがちです。代わりに「このアプリを最後に使ったときのことを教えてください」と実際の体験を語ってもらいましょう。
司会(モデレーター)の役割:
オブザーバーの役割:
アンケートは目的によって設問タイプが変わります。
| 目的 | 設問タイプ | 例 |
|---|---|---|
| 満足度測定 | リッカート5段階 | 「このサービスの使いやすさを5段階で評価してください」 |
| 行動頻度 | 選択式 | 「週に何回このアプリを使いますか?」 |
| 優先順位 | ランキング/マックス差分 | 「次の機能を重要な順に並べてください」 |
| 問題発見 | 自由記述 | 「使っていて困ったことがあれば教えてください」 |
| NPS測定 | 0〜10スコア | 「友人にこのサービスを薦める可能性は?」 |
NPS(Net Promoter Score)の活用:
NPSはユーザーロイヤルティの指標として広く使われます。
NPS = プロモーター% - デトラクター%
⚠️ NPSは単独では意味が薄い指標です。「なぜこのスコアをつけたか」という自由記述の設問をセットで使い、定性的な理由を合わせて収集してください。
KJ法は日本の文化人類学者・川喜田二郎が考案したデータ整理手法です。UXリサーチで最も広く使われる定性データの分析手法の一つです。
実施手順:
デジタルツール: FigJam・Miro・Mural が代表的なオンラインホワイトボードツールです。
共感マップはユーザーの内面を「考え・感情」「言動」「見ているもの」「聞いていること」の4象限と「苦痛」「利得」を合わせた6つの観点で整理するツールです。リサーチデータからペルソナを作成する前段階として使います。
| 象限 | 問い |
|---|---|
| 思考(Think & Feel) | ユーザーは何を気にしているか、何を感じているか |
| 発言(Say & Do) | ユーザーは何を言っているか、どんな行動をしているか |
| 見ている(See) | ユーザーの周辺環境・競合・情報源は何か |
| 聞いている(Hear) | 友人・メディアから何を聞いているか |
| 苦痛(Pain) | 何を恐れているか、どんな障壁があるか |
| 利得(Gain) | 何を達成したいか、成功の基準は何か |
「人はプロダクトを買うのではなく、ジョブ(仕事)を達成するためにプロダクトを雇う」という考え方です。Clayton Christensenが提唱しました。
JTBDの記述フォーマット:
「私が〔状況〕のとき、〔動機〕のために〔ジョブ〕したい。そうすれば〔期待する結果〕になる。」
例:
「私が朝の通勤電車に乗っているとき、限られた時間で業界情報をキャッチアップするためにニュースをサッと確認したい。そうすれば職場でのチームとの会話に貢献できる。」
このフォーマットで記述することで、「ユーザーが本当に達成したいことは何か」が明確になり、機能要件の根拠として使えます。
HMWは「どうすれば〜できるだろうか?」という形式で課題を機会に変換するフレームです。Define(定義)フェーズでリサーチ結果を設計課題に変換するときに使います。
変換の例:
| リサーチ結果(課題) | HMW(機会) |
|---|---|
| 「カートに商品を入れてもどこに進めばいいかわからない」 | 「どうすれば次のステップを明確に示せるだろうか?」 |
| 「メニューが多すぎて何を選べばいいかわからない」 | 「どうすれば重要な選択肢をすぐ見つけられるだろうか?」 |
| 「初回設定が面倒で途中でやめてしまった」 | 「どうすれば初回設定を楽しくスムーズにできるだろうか?」 |
💡 HMWの問いは「広すぎず、狭すぎず」が重要です。「どうすれば世界一のアプリを作れるか?」は広すぎてアイデアが出にくく、「どうすれば決済ボタンの色を変えられるか?」は狭すぎて本質的な課題解決につながりません。
NNgroupが提唱するリサーチ手法の分類マトリクスは、手法の選択に役立ちます。
| 軸 | 分類 | 説明 |
|---|---|---|
| 縦軸 | 態度的(Attitudinal) | ユーザーが「言うこと」を調べる(インタビュー・アンケート) |
| 縦軸 | 行動的(Behavioral) | ユーザーが「すること」を調べる(観察・ログ分析) |
| 横軸 | 定量的(Quantitative) | 数値・統計で答える |
| 横軸 | 定性的(Qualitative) | 言葉・観察で答える |
最も信頼性の高いインサイトは、「行動的×定性的」(ユーザビリティテスト・コンテキスト調査)から得られます。言葉だけでなく実際の行動を観察するためです。
ユーザーリサーチは「定量調査(何が起きているか)」と「定性調査(なぜ起きているか)」の2軸を組み合わせることで、設計の根拠となる本物のインサイトが得られます。インタビューはオープンクエスチョンと行動質問で実際の体験を語ってもらうことが核心です。得られたデータはKJ法・共感マップ・JTBD・HMWなどのフレームワークで整理し、設計に直結する形式に変換します。次のレッスンでは、リサーチ結果を設計に活かすためのペルソナとジャーニーマップの作成方法を学びます。
全問正解でこのレッスンが「完了」になり、コースの全レッスンを完了すると修了証が発行されます。解説つき・何度でも挑戦できます。
Q1.分析ツールで決済ステップの離脱率が高いと分かりました。離脱の「理由」を知るために適した次の調査はどれですか?
Q2.アプリの使い勝手を探るインタビューの質問として、本文の原則に最も沿うものはどれですか?
Q3.リサーチで「初回設定が面倒で途中でやめた」という声が多く出ました。HMWへの変換として本文に最も沿うものはどれですか?
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